平成21年度地域木造住宅市場活性化推進事業
- 1. 事業名「地域木造住宅市場活性化推進事業「名工家」」
- 2. 事業実施期間 平成21年4月30日 ~ 平成22年2月26日
- 3. 事業主体 住環境価値向上事業協同組合(略称SAREX)
- 4.事業の成果
「長期優良住宅」の時代にあって、もっとも重要な住宅の維持・管理は、大工・工務店の倒産・廃業等の増加によってストックの価値持続そのものが危機に陥っている。
そこで、新たな地域木造住宅市場への適合力を強化し、密接な情報連携を取りつつ、各社それぞれの競争力を高めるために多岐に渡る試行を行った。
1. 専門工事業者とのパートナリングの再構築
(1) 「名工家」として協力業者との請負約款の作成と統一化
履行確保法の時代にあって、専門工事業者は、自らの施工品質に対して一定の責任を有する。このことを明文化することで、品質管理意識が向上する。顧客からの施工現場での満足度を得ることは、競争力確保の基本であり、これによって協力業者との「程よい緊張関係」を築くこととなった。また、次の段階で専門工事業者の合同化を展開するために、書式を統一した。今年度は、その基本となる統一約款を検討、作成し、各協力業者と「協力業者統一約款」を交わし、現場品質力に対する意識喚起を行った。
今後は、現場対応から生まれる顧客満足度を高めるために、労安法の遵守に限らず、基本的な現場清掃や近隣挨拶等をマニュアル化した「現場マナーブック」を作成し、より顧客満足度を高める現場づくりを計画したい。
(2) 品質管理に関するネットワークとしての統一化
工務店の基本は設計図書の施工による実現力にある。そこで、現場監督が品質の確保等において果たす役割は昨今の木造住宅生産においては大きい。しかし、木造住宅の現場管理手法は無いに等しい。そこで、今年度は、現場監督の研修、現場管理評価なども行い、基本的な「業務フロー」、「総合施工計画」、「足場計画」などのひな型を作成し、統一化された書式とすることで、品質管理に関する水準を一定化する試みを行った。
(3) 専門工事業者の評価分析とプレ合同研修会の開催
各工務店の材調達方法、材調達コスト、大工を含めた各専門工事業者の住宅建設に占める比重比較、コスト比較を行い各社の家づくり手法の違いを明確化した。またコスト構成も明確化した。こうしたことを行った上で、専門工事業者の名簿公開・合体化を行ないプレ合同研修会を開催した。本格的な合同研修会は次年度開催とする。
(4) 不具合事象と専門工事業者の施工能力評価
専門工事業と工務店との付き合いは意外と長く、先代からの付き合いであるケースも多い。しかし、技術や技能において先進的な取り組みを行っておらず、その工事技術が求めている水準の変化を理解していないケースもでてきた。ここでは過去5年間の工種・工程別の不具合事象の有無を記録化し、専門工事内の特定部分に発生する不具合とその問題点を明確にした。今後は、こうしたデータを基に基本的な品質チェックのポイントを対専門工事比較の中で明確化し、事例等を「駄目工事集」として作成したい。
2. 地域住宅市場での新たなビジネススキーム構築
(5) 持続可能性の検証
地域における工務店の役割、業態変化がストック化の中で生じてくる。しかし、基本的には、戸建て木造住宅の新設着工量に見合った「優良」な工務店は生き残るであろう。その「優良」さとは、地域での支持(家づくりの品質評価及び家守りの的確性)が基本的な持続力であり、その持続力を有しているのかということは絶えず問われている。ここでは、30年後の未来から自社がどう持続するかのシナリオを作成し、その持続性の検証を試みた。力のない工務店やアトリエ的な1代限り型の工務店では、こうした未来年表を作成することは不可能であり、このシミュレーションによって、今後の地域木造住宅市場がどのようになるのか、そして、その時にどのような人材が育成されていなければならないのか、を演繹的に検討した。
(6) 家守りのシステム化
ここでは、定期点検を中心として顧客との関係づくりの持続化及び住宅価値の持続のためのメンテナンスのシステム化を「有料化」の視点、新たなビジネススキームの点から検討した。これまで「無料点検」という形で、顧客からのクレーム対応しかしていない現状から脱皮し、積極的に家守りを行うことで、そのプロセスから発生するリフォーム、リノベーション需要を確保する、という視点でもある。しかし、将来的には家守りビジネスだけで自律したビジネスとして成立することが望ましい。今後、「名工家」としての協同メンテナンスをどう展開させるのかが、次年度の課題となっている。
3. 大工技能者の「出口」問題対応と若年大工の育成手法
(7) 高齢大工のエージェント化
建設業法の厳格化の中で「一般」すら取得していない大工・工務店は意外と多い。こうした大工たちの高齢化が進行し、地縁による顧客からの需要はあるものの「仕事」を受けることができない、という状況が出てきた。信金面(与信力)、施工そのものの不可能化(仲間も高齢化しているために横請けが不可能)、そして後継者が不在(「名工家」傘下の手間請け大工で元請もやっている大工に対するアンケートでは後継者有りは35%に過ぎない)。
こうした、大工たちの将来を安定化することが、若年層の参入を促すことにも通じる。そこで「元請力無し、顧客あり工務店」からの顧客引継の仕組みづくりを行う検討をし、新たな地域木造住宅市場活性化の方途としての「エージェント化」のビジネススキームを検討、着手した。
基本的には、それとともに高齢大工たちの「老後」対策は切実であり、彼等に年金(基本的に月額5万円程度)に付加するような、月10万円を保証する仕組みづくりを行っていく。こうした大工の老後のライフプランと仕事に対するエージェント機能をさらに展開する必要があり、こうしたことが「名工家」のようなネットワークであれば可能であり、その試みの継続が必要である。
(8) 若年大工の技能交流
ネットワークを創り出すことで、技能者レベルでの交流を行うことが可能となった。「名工家」メンバー工務店は、伝統工法(社寺も手がける)型工務店、大壁中心工務店、企画型住宅中心工務店、パネル工法中心工務店と工法も様々であり、先端と伝統の両方を知りうることが可能なネットワークとなっている。今年度は、現場見学を技能者間で行ったが、今後は、大工が伝統と先端の両方を知りうる環境を作り、技能の幅を持った大工育成を行う。
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